252 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/18(金) 12:51 ID:aHqDKBw.
>>251 毎度かわいらしくてどーも。

壁―卵という対立軸を図式化しようとしたときに、
卵を壁の外側に置いていいのかな、とふと思ったのが、今朝。

村上春樹は、エルサレム賞の授賞式に出席しました。
事前に多数の反対があったにも関わらず、です。
(反対を訴える文章の一部は、今でもネットで見ることができます)

その理由を、村上春樹は、スピーチの前半では、「私はあまのじゃくだから」、
人に、それも沢山の人に、するなといわれたことがしたくなる、と述べています。
(これも私は単なる茶目っ気とは見ていません、今すぐは触れませんが)

また、スピーチの最後の部分では、
イスラエルの人たちだか誰に向かってだかは判然としませんが、
私がここに来た最大の理由は、「あなたたちがいるから」だ、と述べています。


253 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/18(金) 12:52 ID:2UW9qI8.
>>1さん、こんにちは。

今回の考察も大変読み応えがありました。
読むたびに考えさせられます。
引き続き楽しみにしています。





254 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/18(金) 12:58 ID:Q/g/yXp.
1さんの考察は正直言って脳みそが喜びます。知的な喜び。考え消化し自分の心の中に取り込んでいける喜び。
本当に興味深い心躍るような小説に遭った時のような。


255 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/18(金) 13:14 ID:aHqDKBw.
「You are the biggest reason why I am here.」

会場で、実際に村上春樹が語った言葉だそうです。
なぜか、英文には残されていないのですが、
在イスラエルで実際に授賞式にいたという日本人のルポを見たんですね。
「漂流博士」という人の、今年2月19日の記事をネットで検索してみてください(携帯からでも見られます)。
もしかしたら、捏造、あるいは勘違いかもしれないですが、
あまり関係ないとすら思っています。

256 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/18(金) 14:36 ID:R2AI8tZ2
当時いろいろ探して、これがいちばん正確かと思いました
自分はこれを底本として扱っています
携帯でご覧になれるかわかりませんが、
「You are the biggest reason why I am here.」も出てますよ

>以下の英文は村上春樹さんが講演を終えたあと共同通信エルサレム支局の長谷川健司特派員
>(支局長)がエルサレム賞主催者から提供を受けたテキストが基になっています。しかし、
>実際の講演はこれに少し修正が加えられていました。当日、長谷川特派員が授賞式会場の取
>材で録音したレコーダーを聞きなおし、実際に村上さんが話した通りに再現したものです。
>(47NEWS編集部)

<英文>
ttp://www.47news.jp/47topics/e/93880.php
<日本語訳>
ttp://www.47news.jp/47topics/e/93925.php

では続きの方楽しみにしております



257 名前:256[sage] 投稿日:09/09/18(金) 14:45 ID:R2AI8tZ2
あ、上記を書いた後に思い出した
文芸春秋4月号に、インタビューとスピーチ全文が出てたのでした
いま見たらこっちも「You are the biggest reason why I am here.」出てました
枝葉のスレ汚しすみませんでした、どうぞ本題をゆさゆさ論じてください



258 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/18(金) 18:43 ID:aHqDKBw.
>>253-254,>>256 こんばんは。
>>256さん、ありがとうございます。
ご紹介いただいたページ、見ました。
淡々としつつも言葉づかいに優しさのある、いい訳ですね。
英文は携帯だと輪をかけてつらいっすけど。

しばらくしてから、始めます。

259 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/18(金) 19:14 ID:aHqDKBw.
英文を見返すに、「You are the~」の文は、
イスラエルの読者に向けて発せられていました。

ただ、その直前の文では
世界中の読者に作品が読まれていることへの謝辞が述べられているので、
村上春樹の話しかける「You」を広く解釈しても、差し支えはそうないでしょう。
ていうか、その筋で話をすることは私の中では決着済みなんですけどね。


さて。

260 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/18(金) 19:25 ID:aHqDKBw.
村上春樹は、自分の読者に会いに来た、
それがエルサレムまで来た最大の理由だ、と言いました。

危うい表現です。
ファンの顔を見に来た、と安易に捉えかねられない。

スピーチの前半では、村上春樹はまだ幾分緊張した表現を採っています。
エルサレムに来たことを指して、
「自分自身を見つめないことより、見つめることを選んだ」
「皆さんに何も話さないより、話すことを選んだ」
と言っているのがそれです。


262 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/19(土) 21:35 ID:dIPZVJUM
1ですが

>>260の後半で挙げた2つの表現は、これは自分の読者にというよりは、
むしろ「壁の向こう側」に向けて発せられたように感じられます。

村上春樹は、壁の両側に向けて語りかけようとした、
私はそう考えるのです。


263 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/19(土) 21:52 ID:dIPZVJUM
卵が殻を破り、壁を越えて飛ぶきっかけは、
このスレで、今まで様々な言い方で述べてきたような「再生」、
おそらくはここにあります。

経緯からいって、そもそも「卵」が「生まれる」という発想は、
「再生」という言葉に導かれて出てきたからです。




264 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/19(土) 21:58 ID:dIPZVJUM
ここで一旦振り返っておくのですが、
「再生」は、組織の加害者にまわった人物が、
いかに反省(「自分は○○のために生まれてきたのではない、
という素直な気付き」)をなし得るか、
その方向性と、その(反省=気付き)の困難さを考える中で出てきた言葉です。

265 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/19(土) 22:11 ID:dIPZVJUM
つまり、私の文脈でいうと、
「卵はもともと壁の外にはない」ことになってしまうのです。

「再生」がもし他人と繋がる条件なら、
もともと壁の外にいて、集団の内部にいない人々は、
「再生」の機会を与えられません。

なぜなら、「再生」は、犯してしまった自分を直視し、
素直に「気付く」ことによって、
はじめて作動するはずの現象だからです。

たしかに、生まれたときから悟った人など、居はしない。
そして、そんな人間に向かって、改めて語りかけるべき言葉などないはずです。

266 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/19(土) 22:19 ID:dIPZVJUM
すごく基本的なことを確認しておくと、
他人と関わらずに生きていける人などいないわけで。

あらゆる人間は、その意味で必ず何らかの「システム」に絡め取られていて、
その壁に囲まれた状態から人生をスタートすることが
予め決まっているのだということです。

「卵」は、壁の内側にもいる、というよりは、
人は、まず「卵」に「なる」ことから始めなければならない、
ということなのだと思います。


267 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/19(土) 22:34 ID:dIPZVJUM
「卵」に「なる」とは、
自身の周りに薄い殻をまとうことによって、
自分の周囲にある、ドロドロに溶解した「圧力鍋の内容物」と、
文字通り「一線を画す」ことです。

これはすなわち、「組織=壁」に違和感を覚え、
システムへの加担を拒否する意志を持つことを意味します。

かくして「卵」は、その薄い殻だけをまとった状態で、
比喩的な意味で、壁の「外側」に置かれることになるのだと思います。



268 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/19(土) 22:41 ID:dIPZVJUM
ただ、実際にその組織から外れようが、組織の内側で耐えていようが、
「再生」の芽は「卵」の中に文字通り「胚胎」しています。

たとえ不満を覚えようが、一旦はシステムに加担したという負い目、
それは「卵」が殻を破るための温度と実は同義です。

うん、今日のは分かりにくいな我ながら…すんません、


270 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/20(日) 00:12 ID:hhsowfTE
1ですが
幾分フォローしておくと。

「反省」は懺悔っぽい響きの言葉ですし、「気付き」なんて言い方をしたり、
「卵」が壁の中で生まれるといったり、
なんか原罪っぽい話の流れになっているんですが、
書きながら、そこまでのことかなとも思っているんですね。

キリスト教の文脈で捌ける話なら、
はじめからそっち方面の話にしてしまえばいいわけで。

それはなにかちがう。

またゆくゆく考えますが。


271 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/20(日) 00:28 ID:hhsowfTE
こう考えましょう。

社会的存在である現代の人間は、
多少なりとも「組織」に加担する運命にはあるかもしれないが、
原罪を背負って生まれてくるのではなく、
毎回、飽くまで「システム」に強制的に「巻き込まれる」のだと。

否応なく巻き込まれるが故に、
意志をもって気付こうとしないと
流される一方なのだといえますし、
もともと各人が原罪的なものなど負っていないが故に、
「気付く」可能性をもともと誰もが秘めているのだと思うのです。


私の中では破綻はきたしていないのですが、
話がほんと分かりにくいな、どうなってんだろ。

272 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/20(日) 00:56 ID:hhsowfTE
誕生

「壁=システム=組織」との関わりが始まる

「組織」から熱をもらう

「システム」への反感

殻をまとう=「卵」に「なる」

「壁」の外に置かれる

「気付き」の自覚=「反省」
(「組織」からもらった熱=組織内部で犯した罪 が孵化の原動力)

「再生」

「壁」の超克

他者との交流の達成

273 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/20(日) 01:05 ID:hhsowfTE
分からんときは図式化だ、と言わんばかりに
とりあえずやってみましたが。
今回に関しては、文で書くよりよっぽどマシな気もします。

多分、比喩がいくつもいりくんだまま具体例をはさみもせず話を続けたので、
分かりにくかったんですね。

今日は遅いので、またあしたです。まんま続きをやります。
元のスピーチに帰って、一旦のまとめができたらと思っています。

275 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/20(日) 20:16 ID:hhsowfTE
「壁」の向こう側にいる人々が
そもそも語りかけるに値しない「縁なき衆生」なら、
村上春樹はわざわざエルサレムまで行きはしなかったと思うのです。

たとえ現状対話が不可能なくらい隔たりがあっても、
「壁」が歴史上懲りずに再生産されてきたように、
その中から「卵」が生まれ続けてきたのもまた確かなことです。

ならばその「壁」の向こう側にこそ語ろう、と村上春樹は思ったはずです。

通じないかもしれないが、
すぐには伝わらないかもしれないが、
自らもまた「壁」に立ち向かう姿勢を示そう、
そして、「壁」を越えた世界があり得ることを示そう、
何よりも自分が「卵」であることを実際に示すことによって。


276 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/20(日) 20:28 ID:hhsowfTE
スピーチの、授賞式での会場の反応は、
半分はスタンディングオベーション、
もう半分は黙って座ったまま、というようなものであったと聞きます。

翌日以降のマスコミの反応も、
絶賛するものもあれば、
呑気な夢物語だとこきおろすものもあり、
他には単なるイスラエルの政治批判として捉えるものもあるなど、
誰もが好きなことを反射的に言い、とっちらかったまま、
メディアでの扱いが徐々に収束していったさまが見てとれます。

いわば、「卵」は見事に「割れてみせた」のです。

277 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/20(日) 20:50 ID:hhsowfTE
反省することは、難しい。
「気付き」は、容易には訪れ得ない。

壁は、たしかに高いままです。

しかし私は、誰もいなくなった壁の前で、
無残に割れた骸を土の上にさらけ出している、
「村上春樹」という勇気ある「卵」を、
今じっと座って見つめています。

「また割れてしまったね」と語りかけながら、
そばにしゃがんで目を向けるだけで、
何もしてあげることはできません。
「卵」は、もう割れてしまった。
私のほかに、誰も見ている者はいない。

そう想像するとき、そこにいる私は、きっとまた、泣いています。


278 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/21(月) 10:39 ID:hO0M2ETs
しかし、よく見渡してみれば、
個人どうしが繋がることを訴えて割れた「卵」を見つめていた人は、
私だけではなかったようなのです。

当たり前ですが、読者というものは、いつも一人で作品に向き合います。

解釈や理解が妥当かはともかく、
私もまた私なりに、エルサレムスピーチという作品に接したのです。

村上春樹は、個の連帯という「夢」や、
「システム」の恐ろしさに関する警告が、
スピーチひとつで即全世界に理解されるとはそもそも思っていなかったはずです。

279 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/21(月) 10:57 ID:hO0M2ETs
加えて、イスラエルに加担しているように理解されたり、
あるいは自身が政治的に利用されるかもしれないというリスクや、
逆に単にイスラエルという国家のみを攻撃するような
偏狭な理解をされてしまうリスクや、
さまざまな誤解に基づく身の危険や経済的損失や社会的評価の失墜を
今後も背負うことになるかもしれないというリスクなど、
さまざまに想定した上で、「にもかかわらず」エルサレムに来た、
それは、既に「卵」と呼べる意識をもっている人たちがいるから、
そしてこれから「卵」に「なる」人は必ずいるはずだから、
だから、彼はエルサレムにやってきたのだと思います、おそらく。

村上春樹の語りかけている「You」は
未来に向けられたものでもあるために、
自分の現在の読者という意味ですらないといえます。

280 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/21(月) 11:11 ID:hO0M2ETs
おそらくは、マスコミ
(村上春樹は、日本のメディアが、
スピーチがイスラエルを直接批判したものだったという旨の報道をしたのをみて、
「ひっくりかえった」という表現をしています。
「卵」が割れたことの比喩ですかね)
や、
イスラエルに限らず、対立を抱えている人たちすべて、
「組織」への同調に無批判に価値をおく日本人、
まだ自分の本を読んだことのない人、
あるいはこの先も読むことはないかもしれないが、
同じ「壁」と「卵」の問題に向き合うことになる人、
すべての人に向かって語りかけたのだと私は考えたいのです。


281 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/21(月) 11:27 ID:hO0M2ETs
「卵」は、選民思想ではなく、
誰にでも開かれた可能性として捉えられるべき比喩です。

鳥になることができた人など、
もしかしたらかつて一人もいなかったかもしれません。
また、他にも自分と同じような苦しみをもつ人が他にいることを知ったとしても、
現実に「卵」として「壁」に抗うことの困難さは、改善されないでしょう。

人は、他人と関わらなければ生きていけない。
「組織」は、「壁」は、「システム」は、「京レ的存在」は、
きっとなくなりはしない。

しかし、
「私はシステムに巻き込まれるために生まれてきたのではない」、
これもまた確かなことなのです。


282 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/21(月) 11:50 ID:hO0M2ETs
私は、村上春樹の作品をほとんど読んだ経験がありません。

文庫本はまあ人並みにいくつか本棚に収まっていますが、
このスピーチほど問題意識が一致するような感じはかつて持てませんでした。

よく売れているという最新作も、見ていません。

私にとって、村上春樹とは、
なぜそんなに評価されているのか、さっぱりわからない作家だったのです。

おそらくは、隠喩をわざと気付きにくいレベルで文章に埋め込むために、
メッセージが明確に表には出にくいのでしょう。

スピーチですら、2月にみたときには、
私は「作家がなんか言ってる、誠実そうではあるけれど」
程度の感想しかもちませんでした。



283 名前:Classical名無しさん[sage] 投稿日:09/09/21(月) 12:00 ID:hO0M2ETs
私がここでやっているのは徹底的に野暮なことなのだろうと思います。

でも、無駄かといえばそうは思わないですね。

読んでくれる人もありましたし、
なにより自身がいろいろなことを考えることができました。

エルサレムスピーチの話は、あと少しだけにします。

次回「にもかかわらず」(変な題ですが)