二つの顔を持つ男
これらの作品は完全なるフィクションであり、実在する人物・団体には一切関係ありません


【お肉壺】QB師匠の窪みを語るスレ【股間が竹の子】 5
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820 名前:お伽草子 ◆NhDiiXmp8. [sage] 投稿日:2009/09/08(火) 20:09:45 ID:X/EN1UCj


これは、日本が戦争の傷も癒え、高度成長期に向かい始めた頃の話である。

「あー、やっぱり植木等は最高だなー」
定雄は「シャボン玉ホリデー」が終わると、テレビのスイッチを切った。
定雄は植木等の大ファンである。植木等のように、クヨクヨせず、何事にも楽天的に前向きに対するのが目標で、好きな言葉は「無責任」と「いいかげん」である。
「あ~ぁ、風呂に入るか」
と、立ち上がった時、遠くから子供の泣き声が聞こえた。
「母さん、あの声は何だい?」
不思議に思った定雄が母のミヨ子に聞くと、ミヨ子は顔を曇らせた。
「あれかい。この先のSさんの御主人が昨年亡くなっただろう。その頃から、Sさんの奥さんが子供を折檻するようになったんだよ」
「なにー!」
普段は温和な定雄であるが、曲がった事は大嫌いである。思わず熱り立った。
「Sさん家といえば、Tちゃんかい?」
定雄は数日前に会ったTちゃんの姿を思い起こした。手足にあった多数の痣、あれは折檻の跡だったのか。Tちゃんはまだ小学校にも上がらない年齢である。
「それで、警察には言ったのかい?」
ミヨ子は横に首を振った。
「警察は事件にならなきゃ来てくれないよ」
当時の日本は、虐待や体罰にまだ寛容だった。
「私もね。あの声を聞くと辛くてたまらないよ」
「許さん!」
定雄は、その夜Tちゃんを思い、まんじりともせず夜を明かした。

翌日、定雄はコートを羽織ると、サングラスをかけ、胸ポケットには黒い手帳を忍ばせて家を出た。向かうはS宅である。
「ごめんください」
定雄がドスの効いた声で叫ぶと、奥から険のある目付きの女性が現れた。
「何か、ご用ですか?」
S婦人は訝し気に尋ねる。無理もない。夏だというのにコート姿の風体怪しい男が、いきなり訪ねて来たのである。
「奥さん」
定雄は胸ポケットから手帳を取り出すふりをし
「こういう者だが」
と、切り出した。
その瞬間、S婦人は真っ青になり床にへたり込んだ。
「お宅じゃ、子供を折檻してるそうだね」
身に覚えのあるS婦人は、床に額を擦り付け懸命に謝まり始めた。
「すみません!すみません!」
「そういう事をしてると、ちょてと来て貰わなくちゃならないな」
「すみません!もう二度としません!」
「本当にしないと言うなら、今回だけは大目に見てやるけど」
「はい、しません!絶対にしません!」
「絶対だぞ、またしたら分かるんだからな」
定雄はそう言うと、S宅を後にした。
家に戻った定雄の異様な様子に、ミヨ子は不審を抱いた。
問い詰められ定雄は白状したが、顛末を聞き仰天したミヨ子は家族に箝口令を敷き、以後、この話は封印される事となったのである。
なお余談だが、その時のTちゃんは成長し、警察官となった。嘘のようだが事実である。