タツの恩返し
この作品はフィクションであり、実在する人物・団体には一切関係がありません


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390 名前:お伽草子 ◆NhDiiXmp8. [sage] 投稿日:2009/10/14(水) 18:58:16 ID:mOF4Y7TO



ある日のことです。
おじいさんが歩いていると、一匹のドラゴンがドブ池で溺れていました。
「おっ、あれはドラゴンではないか。ドラゴンの皮や肝は高く売れると聞く。どれ、捕まえて家計の足しにするか」
おじいさんは住宅ローンで苦しんでいたので、ドラゴンを捕まえることにしました。
おじいさんは、老体に鞭打ってドブ池に入ると、ドラゴンを掴み岸まで引き上げました。何せ年寄りですから、ヘトヘトです。額には髪の毛がベットリとへばり付いています。
「はぁはぁ、どれ、家に連れて帰るとするか」
おじいさんはドラゴンを持ち上げようとしました。しかしドラゴンはかなり重く、おじいさんがいくら頑張って持ち上げようとしてもビクともしません。
「クソ、ダメだ。諦めるしかないか。まったく骨折り損だったわい」
おじいさんは仕方なく、ドラゴンを転がしたまま家に帰りました。

その夜のことです。
おじいさんが家で内職をしていると、玄関で物音がします。
「おや、一体何だ」
おじいさんがドアを開けると、くたびれた中年男が立っていました。
「なんだい、押し売りかい。金はないから、とっとと帰っとくれ」
おじいさんは、ドアを閉めようとしました。
「待って、あたいは、さっき助けてもらったドラゴンのタツなの。御礼に恩返しに来たの」
「何、恩返しだと。それはそれは、おタツさんとやら。さあ、中に入っとくれ」
御礼と聞いたおじいさんは、喜んでヘラヘラ笑いながらタツを中に入れました。

「まあ、立派なお宅ねえ。う~ん、もう、羨ましい!!」
「いやいや、それほどでもあるな。ヘラヘラ」
おじいさんは、満更でもありません。
「あら、あれ何かしら?」
タツは壁に掛かっていた色紙を指差しました。

┏━━━━━━━━┓
┃ 被害者より       ┃
┃ 加害者が大事   ┃
┃ と思ひたい       ┃
┗━━━━━━━━┛

下手くそな字で書いてあります。
「おお、気がついたかの。あれはワシの教え子が書いたものでの。書道八段ぢゃ。どうぢゃ、いい言葉ぢゃろう」
「ホントね~。ジ~ンと来るわあ」
その娘が今夜テレビに出るのぢゃ。そうだ、一緒に見ようぞ」
おじいさんは、タツを隣に座らせテレビのスイッチを入れました。


テレビでは、歌番組を放送していました。

「悪夢の歌謡ショー」

ステージでは、三人の不細工な女が歌を歌うところです。

セカレの思い出

歌 :ブースリーシスターズ
演奏:ファンキー磯村&ニューレイパーズ


https://www.youtube.com/watch?v=ukyO6vJPxtY

黙っていれば 分からないのに
あなたが やった チクリが憎い
掛かる火の粉を 振り払い
今夜もスレで 踊っているわ
わたしを どうぞ 放っておいてね
怪しい人は 他にも いるから

歌い終わったブースリーシスターズは、深々とお辞儀をしました。
「引っ込め、このブス」
「やめろ、オタンコナス」
会場はブーイングの嵐になっているようです。
テレビを消したおじいさんは ため息をつきました。
「あの娘たちの頃は、大変な就職難でのう。みんな苦労したものぢゃ。あの娘たちもドサ回りの末やっとデビューしたんぢゃが、まだウェイトレスやらバイトしておるらしいのう」
「まあ、そう、芸能界は顔が大事だものねえ」
タツは適当に相槌をうちました。
「それより御礼とは、何をくれるのかな?」
「今夜は遅いから、明日にしましょうよ。それよりお腹空いたちゃったわ」
「そうか、では何か作ってくれ」
「う~ん、出前でも取りましょうよ」
「何を言うか、よし、ワシが作るわい」
おじいさんは台所に立つと、クリームシチューを作りました。
「わあ、おじさまのこと尊敬しちゃうわ。内職しながら料理をするなんて」
「おだてても無駄ぢゃ。ヘラヘラ。それより御礼とやらを期待しておるぞ」
「分かってるわ。明日ね」
そう言って、タツはウインクしました。
翌日 タツはおじいさん言いました。
「おじさま、あたい一人になれる部屋が欲しいの」
「なに、個室ぢゃと。それは御礼とやらに関係あるのかの?」
「う~ん、おじさまの意地悪。ご想像にお任せするわ」
「お!やっぱりそうか。よし、この部屋を使うが良いぞ」
おじいさんは、そう言うと物置に案内しました。
「それからね、おじさま、あたいが居る間は、決して覗かないでね」
「おう、分かっておる。心配するでないぞ」
それを聞くと、タツは物置に入って行きました。
しばらく経ってもタツが物置から出て来ないので、おじいさんは扉越しに聞き耳をたてました。
「う~、う~」
タツの苦しそうな呻き声が聞こえます。
「やはりそうだったか。皮を剥いでいるのぢゃな。ドラゴンの皮は高価ぢゃから楽しみだわい。財布か、いやベルトかも知れん」
おじいさんがヘラヘラ笑っていると、タツが物置から出て来ました。疲れた様子で、汗をかいています。おじいさんはそれを見ると、自分の予想が当たっていると確信し、満足げに頷くのでした。

それから数日が過ぎました。
タツは毎日昼間は物置に篭っています。しかし、一向にドラゴン皮製品をおじいさんに渡そうとはしません。
業を煮やしたおじいさんは、タツが物置に入った時、また聞き耳をたてました。
「う~、う~」
相変わらず、苦しそうな呻き声です。
おじいさんは、もっと聞きますした。
「う~、あ~、ひかりちゃん、あー!いー!」
激しい息遣いに混じり、何やら絶叫のような声も聞こえます。
不思議に思ったおじいさんは、タツが物置から出ると尋ねました。
「おタツさん、あの~、御礼はどうなったのかの?」
「ああ、それね、じゃあプレゼントするから座って待っていて」
おじいさんは、椅子に座ってタツからのプレゼントを待ちました。

おじいさんが椅子に座ると、タツは前に出て言いました。
「おじさま、私からのプレゼントは、私が使ったポエムよ」
そして朗読を始めました。

「捏造の泉を知ってるかい?それは百回言えば嘘も真実になるということなんだ。
『なにトボけたこと言ってんだ?』セカレたちに尋ねても、はぐらかされた答えだけ、空しく耳を通り過ぎる。
庇い合い、ダマし続け、幾重にも重ねる嘘の柵。紐を解いて抜け出すんだ。
ひとりひとりがバレないように守って来た、真実の泉があるだろう?
かたくなに閉ざしていた扉を開ければ、逮捕者ゾロゾロ。
インディゴの空へと飛び立つ大人たちが一番大事なものを知ってるかい?
それは、一スピ、二タツ、三あたい、知るかゴロツキろくでなし、名無しの腹巻クソの色」

朗読が終わると、タツはうっとりとしておじいさんを見つめました。おじいさんは口を開けたままポカーンとしています。
しばらくして、おじいさんは我に帰りました。
「なにー!これがプレゼントぢゃと。戯言もいい加減にするのぢゃ」
「あら、芸術が解らないのね」
「何が芸術ぢゃ。こんなものペテン…。あっ!思い出したぞ。お前は、先月この先のアパートを追い出された、ペテン師のタツぢゃな」
「あら、バレちゃった。そうよ、あたいがペテン師のタツよ」
「さては居候して、タダ飯を食うつもりだったのぢゃな」
「いいじゃない、退職金をたんまり貰ったんだから」
「何を言うか、わしゃ、泣く泣く勲章を諦めるたのぢゃ」
「そりゃそうでしょ。あんたがキチンと処分してりゃ、こんな騒ぎにはならなかったんだから」
「お前こそ、セカレを野放しにしおって。管理人が聞いて呆れるわい。無責任にも程がある」
「あんたに言われたくないわね」
「だいたいお前は、いつもブラブラしおって。とっとと働け」
「キーッ!悔しい!」
ボワン!
タツは悔しさのあまり、ドラゴンの姿に戻ってしまいました。
「ほら見ろ、本性を現したな。だから女房にも逃げられるのぢゃ」
「なによ!このスットコドッコイ!あー、悔しいったらありゃしない。キーッ!」
ボーッ!
とうとうタツは火を吹き出しました。
メラメラメラメラメラメラ…
おじいさんの家は炎に包まれ、燃え落ちてしまいました。

おしまい