タロイモ畑でつかまえて

この物語は不完全なフィクションであり、実在の人物、場所、事件は多分と関係ごさいません

このタイトルは作者が勝手に引用したもので、原作者様、及び類い稀な名意訳をされた訳者様とは一切関係ございません


【お肉壺】QB師匠の窪みを語るスレ【股間が竹の子】 5
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318 名前:お伽草子 ◆NhDiiXmp8. [sage] 投稿日:2009/09/02(水) 21:22:44 ID:hM2GQJcW


キムチ色に染まった夕陽を見て、吉田瑞紀は溜め息をついた。
そして、先程の出来事を思い起こした。
突然現れた四人の旅人。ああ、生身の男性を見たのは何ヶ月ぶりだろう。ババァに呼ばれて行った時、オッサンは私に陶然としていた。やっぱり私の彫りの深い顔立ちは男性を引き付けるんだわ。
今まで彼氏が出来なかったのは、チャンスがなかったからなのよ。きっかけさえあれば私だって。そう、もしかすると今頃引き返す相談をしているかもしれない。私に会うために…
そしてまた瑞紀は甘美な余韻に浸るのだった。

ここ天竺タロイモ農園は、シスター・ジェンキンスなる老婆が創設した、女性の自立を目指す施設である。しかしそれは名目に過ぎず、本当は娘達を縛り付け私腹を肥やしているのである。
シスター・ジェンキンスをその名前で呼び者は少ない。陰では皆
ババァで通じるからだ。
ジェンキンスが労働の対象を女性に向けたのは、若い女性が嫌いだからだ。それはもう憎しみの域に達していると言えるほどだ。哀しい過去が彼女を女看守に変えてしまったのだが、若い娘を幽閉する事に彼女は生きる喜びを見出だそうとしている。

夕飯の時、美紀の隣にちなーつが座った。
美紀はちなーつが嫌いだ。いや、美紀が嫌いでない女は一人もいないのだが、ちなーつはその中でも群を抜いている。美紀は心の中で、その身体的特徴からちなーつを『ハグキ』と呼んでいる。
「ミッキー、今日はごめんね」
ちなーつはすまなそうに謝った。
「ううん、大丈夫だよ。足はもういいの?」
(あんたが足をくじいたなんて言うから、あたしが水撒きに回されたんだよ。本当は草むしりの筈だったのに。足が痛いなんて、どうせ嘘なんだろうよ。ハグキは嘘ばっかついてんだから)
「うん、平気。明日までには良くなると思うよ」
(ほーら、やっぱり嘘だ。仮病だったんだ)
「無理しないで~、それよりさ~」
と言いかけて、慌てて言葉を飲み込んだ。
あれから四人組のことばかり考えているので、つい口に出てしまうのだ。
こんなハグキ女に私があの男達の事を考えていると知られたら、バカにされるに決まっている。危ない危ない。
「ううん、なんでもない」
そい言って、瑞紀はタロイモのソテーを口に運んだ。

他人の悪所ばかり考えている瑞紀だが、瑞紀もまた回りから良く思われてはいない。
他人を認めようとしない瑞紀が受け入れられないのは当然なのだが、決定的に嫌われたのは新人の入所歓迎会である。
誰かが歓迎の挨拶をする事になった時、名乗りを上げたのは瑞紀だった。
「シスター、私にやらせて下さい。私、文章を書くのは得意ですの。きっと他の誰より上手く出来ますわ」
なんとも謙虚さなど微塵も感じさせない言い様である。これでは関係友好を築けないのは無理もない。しかも瑞紀が書いた挨拶の原稿は、これもまた酷いものだった。
原稿用紙30枚にも及ぶ挨拶は終始自分を中心としたものだったし、表現には過度の敬語が繰り返し使われ、意味合いまでも変えてしまっていた。
敬語なら多ければ多い方が良い。その無知ともいえる暴挙に、娘達は発する言葉もなかった。
その時、だれかが呟いた。
「慇懃無礼」
インギンブレイ・・・
その意味は理解出来なかったが、濁音の多い響きは娘達の心を捕らえた。
それ以来瑞紀は陰で「インキン」と呼ばれている。

瑞紀には寝る前の儀式がある。
それは空想の世界に身を委ねるのである。空想の中で瑞紀は絶世の美女となる。出会う男達は、皆たちまち瑞紀に夢中になるのである。
瑞紀はその儀式を『未来への階段』と呼んでいる。以前は『夢への扉』だったのだが、夢で終わらせてはならないと気付き変えたのだ。
空想にはいくつのパターンがあるのだが、特にお気に入りなのは、王子様と草原を走り、草むらに倒れ込むというパターンである。これは幼い頃から何度も登場し、今、その舞台はタロイモ畑になっている。
よし、今夜はあの男達と空想の世界で戯れよう。
瑞紀はそう決めると、布団に横になった。

布団に入ると、瑞紀は目を閉じ空想に没頭しようとした。

ああ、私がタロイモ畑にいると、あの人が駆け寄って来るの。
「・・・」
瑞紀は我に返る。
男は四人いた。誰を相手に選ぼうか。
昨日までは男日照りが続き、空想の相手に苦労していた瑞紀だが、一度に四人現れると、これまた困るのである。
(贅沢な悩みだわ)
相手の意思を無視してのことだから、思うがままに相手を品定めする。
(まずオッサンはパスね。なんだか知らないけど、脚が斑になっていて気味悪い。遠くから見た時は水玉のズボンを穿いているのかと思ったわ。あと猿もねぇ、チンチクリンだし。
あ、豚は論外。あとは河童か…)
「・・・」
瑞紀はまた行き止まる。コレというのが誰もいないのだ。
しばらく考え、瑞紀は閃く。
(そうだ、四人に言い寄られる事にすればいいんだわ。一人一人は冴えなくても、四人ならいけるかも)
そこで瑞紀は更なるアイディアを思い付いた。ちなーつを参加させるのだ。ちなーつは勿論男達に振られる役柄である。瑞紀はこの思い付きに満足し、また目を閉じた。

瑞紀はタロイモ畑にいる。そこに猿が来る。
「瑞紀さん、俺、あなたの事が忘れられなくて、戻ってきました」
「えっ、そんな」
-そこに豚が登場
「ミッキー、おらもだ、ブヒッ」
「な、なんのことかしら。急に言われても」
-そこにちなーつが登場
「待って、私を捨てないで」
「うるさい、ブヒッ。おらはミッキーしか愛せないんだ」
「そんな」
-ちなーつが泣きながら退場 、代わりに河童が登場
「おーい、抜け駆けは卑怯だぜい」
「待って、私、私、私・・・」
そこでまた問題が起こり、瑞紀はまた目を開く。
(私はあの人達の名前を知らないんだ。何て呼んだらいいんだろう。一人は『た』が付いた。もう一人は『ご』で始まる名前だった。あとは…
ああ、あの時もっとしっかり聞いておくんだった)
しばらく思い出そうと努力したが諦め、サルオさん、ブタオさん、にする。河童は良い呼び名を思い付かないのでキャストから外す事にした。
(オッサンはどうしようか?オッサンさんではなぁ。ジジィさんでいいか)
呼び名を決め、瑞紀はまた目を閉じた。

三度瑞紀は瞼を閉じた。
このあたりになると半分眠っているので、成り行きは思わぬ方に行く事もある。

「サルオさん、困るわ」
「ミッキーはおらのもんだ」
「ブタオさん、止めて」
「黙れ、ブタオ」
「なんだと、ブヒッ」
「この野郎」
「やれるもんなら、やってみろ」
猿と豚は喧嘩を始め、二人とものびてしまう。

半分眠っているが、半分は覚醒しているので、思わしくない方向に向かっているのは分かるが
(もう一人いるから、まいいか)
変な所は冷静で、都合よく判断したりする。

-オッサン登場
「やあ瑞紀、やっと捕まえたよ。僕達の真実の愛を探す旅に出掛けよう」
「ああ、嬉しい」
「瑞紀、離さないぞ」
ここで抱擁する訳だ。
「・・・」
また困った事になった。
瑞紀の予定では、抱擁は草陰で行うのだが、タロイモの背丈は低いので、外から丸見えである。
(ええい、あのババァ、なんでタロイモにしたんだろう。トウモロコシでもサトウキビでも、背丈の高いのはいくらでもあるのに)
仕方ないので、すぐに押し倒される事にする。

オッサンが瑞紀にのしかかる。
「瑞紀、いいだろう?」
「そんな、ジジィさん、恥ずかしい」
瑞紀は勿論男性と付き合った事はない。興味は人一倍あるのだが、コトの運び方はさっぱり分からないのだ。イザという時は殿方任せにするつもりだが、今相手をしている殿方は意思のない殿方である。
(肝心な時になんてこった)
瑞紀は完全に目が覚めしまった。そして、あれこれ身振りで試行錯誤してみる。
「まず脱がされるのは上からね。その間、私はどうしているのかしら?
手がこう来たら、私はこうして。あ、いやそうすると左手が邪魔ね。すると、こうして、ああなって……。

空は白々と明けて行く。
数時間後、瑞紀は目の下に大きな隈を作り朝食へ向かうのだった。