乙!の魔法使い
この物語は完全なるフィクションであり、実在する人物・団体には一切関係ありません
【お肉壺】QB師匠の窪みを語るスレ【股間が竹の子】 6
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598 名前:お伽草子 ◆NhDiiXmp8. [sage] 投稿日:2009/09/17(木) 13:44:08 ID:uidsPMHF
日頃の献身的なレポと、この作品への出演を快く承諾してくださったパンスレのくまさんに感謝を込めて
パンの国のくまタンは、元気な男の子です。くまタンは、お父さんとお母さんとの三人で、小さな家に住んでいます。
ある日、お母さんはくまタンにチキンサンドを作りました。くまタンはお母さんが作ったパンが大好きです。
「わぉ、おいしそうだお」
くまタンはデジカメでチキンサンドの写真を撮りました。おいしそうなパンを見ると、いつも食べる前に写真を撮るのです。
「いただきまーす」
くまタンは早速食べようと一切れ取った時、お父さんが慌てて入って来ました。
「大変だ!竜巻が来るぞ。早く地下室に非難するんだ!」
パンの国では、よく竜巻が起こります。そのために、くまタンの家には地下室がありました。
「大変だわ!くまタン、早くにげないと」
お母さんとくまタンは、地下室に逃げ込みました。でも地下室の前まで来た時、くまタンはチキンサンドを置いて来た事を思い出しました。
「取って来るお」
「あっ、くまタン」
くまタンは引き止めるお母さんを振り切って部屋に戻ってしまいました。
その時、突然大きな音がしました。
ガガガガ、ゴーーッ。
そして部屋が揺れ始めたと思った途端ぐるぐる回り始め、くまタンは何も分からなくなってしまいました。
ドーン!
大きな音で、くまタンは目が醒めました。揺れも治まっています。
「あー、びっくりしたお。どうしたのかお?」
辺りを見ると、窓の外の景色が変わっているようです。くまタンは恐る々々外へ出てみる事にしました。
ドアを開けると、そこは見た事もない不思議な世界でした。
色鮮やかな草木が生い茂り、たくさんの花が咲き誇っています。近くには小川があり、澄んだ水が流れています。
その美しい風景にくまタンが見とれていると、一人の男が近づいて来ました。
「よう!あんたが救世主かい?」
「ぼ、僕は救世主じゃないお。くまタンだお」
「だって、あんたがコイツをやっつけたんだろ?」
そう言うと、男は家の下を指差しました。くまタンが見ると、人が家の下敷きになっています。家の下からは、運動靴を履いた脚がニョキッと出ていました。
「うわぁー、大変なことしちゃったお!」
くまタンは泣きそうです。
「なーに、気にすんな。こいつは悪い魔法使いで、みんなから嫌われてたんだ。コイツがいなくなって、みんな大喜びだぜ。あんたはマンチキンの救世主だって、みんな言ってるよ」
そう言われて、くまタンは少しホッとしました。
「前にコイツんとこのガキがうちの窓ガラスを割ったからさ、文句言いに行ったら、コイツったら『私には関係ないからコメント出来ません』とかほざいてよ。信じられっか?」
くまタンは男の話を聞いて安心しました。すると、急に空腹なのに気付きました。
「そうだ!ママンが作ったチキンサンドがあったくま」
「なに!チキンサンド!おらの大好物だぜ。おらはチキンの中のチキンと言われてるんだ。おらをマンチキングと呼んでくれ。いや…本名はもっと肉々しい名前なんだが…」
「それじゃ、マンチキングさんも一緒に食べるといいお。半分あげるお」
「そうか!いや、悪いな」
マンチキングは遠慮する素振りもなく、さっさと家の中に入って行きました。
「うひょー、旨そうだなー」
マンチキングの目はチキンサンドに釘付けです。
「手を洗って来るから、先に食べてていいお。半分残して欲しいくま」
そう言うと、くまタンは手を洗いに部屋を出ました。
チキンサンドは四切れあったので、マンチキングはあっと言う間に二切れを貪りました。そして食べ終わると、残っているくまタンの分も食べたくて堪らなくなりました。
「食いてえなぁ。でもくまタンの分だしなぁ。いいや、くまタンはテキトーにごまかせばいいや」
マンチキングは、もう一切れも食べてしまいました。
そこにくまタンが戻り、お皿を見てチキンサンドが一切れしかないのに気付きました。
「あれ、一切れしかないお。チキンサンドは四切れあった筈だお」
「何言ってんだい。チキンサンドは二切れしかなかったぜ。半分食べたから、残りは一切れさ」
マンチキングはしらっと嘘をつきます。
「違うお。確かに四切れあったお」
「二切れしかなかったぜ。四切れあったって言うなら証拠を見せてみろよ」
「証拠ならあるお」
くまタンはそう言うと、さっき撮ったデジカメの写真を見せました。チキンサンドが四切れ写っています。
「なんだよ、証拠があったのかよ。分かった、おらが悪かったぜ。だけどもう食っちまったからなぁ…。そうだ!代わりにいいもんやるよ」
そう言ってマンチキングは外へ出て行きました。
マンチキングの後についてくまタンも外へ出ると、マンチキングは家の下敷きになっている男の脚から運動靴を剥ぎ取りました。
「ほらよ。これをくまタンにやるよ」
「ダメだお。これは悪い魔法使いさんの物だお。他人の物を取ってはいけないお」
「なーに、構うもんか。あん時のガラスも弁償して貰ってないし。これはあの時のガラス代替わりさ。ほら、履いてみろよ」
マンチキングはそう言うと、くまタンに運動靴を渡しました。
くまタンが履いてみると、少し大きそうに見えた運動靴は、くまタンにピッタリです。足がスーッと軽くなり、どこまででも歩けそうな気がしました。
「コイツはただの運動靴じゃねえ。魔法のランニングシューズだ。どこへでも行けるのさ」
「それじゃ、パンの国にも行けるのかお?パパンとママンに会いたいお」
「ああ、行けるだろうな。でもそれには呪文が必要だな」
「呪文かお。どうしたら分かるかお?マンチキングさんは知ってるのかお?」
「うんにゃ、おらは知らねえ。だけど尾津村のジィさんなら知ってるかもしれねえな。この先の町のコーポクリオってアパートに住んでるぜ」
「ありがとう。その尾津村のジィさんに会いにいくお」
くまタンは、早くお父さんとお母さんに会いたくてたまりません。尾津村のジィさんに会いに行くことにしました。
「くまタン、その魔法のランニングシューズは狙っている奴がいるから気をつけろよ。例えば…」
とマンチキングが話していると、人相の悪い男が猛スピードで歩いて来ました。
「例えばあいつだ。あいつはこのランニングシューズを狙っているんだ。よぉ、ファンキー、どうした?」
マンチキングは腰をぷりぷり振りながら歩いて来る男に声を掛けました。
「ヤツが死んだと聞いたから大急ぎで来た。魔法のランニングシューズはどこだ?」
「残念だな、ファンキー。魔法のランニングシューズは、くまタンが戴いたぜ」
「おぉぉ、遅かったか!ショックです!」
ファンキーは頭を抱えうずくまりました。
「それに、そのファンキーって呼び方も止めてくれ。恋の伝道師と呼んでくれ」
ランニングシューズを諦めた自称恋の伝道師は、その場で柔軟体操を始めています。
「自称恋の伝道師さん、どうして恋の伝道師なのかお?」
くまタンが尋ねた途端
「よくぞ聞いてくれました!」
自称恋の伝道師は柔軟体操を止めて立ち上がり、演説を始めました。
「私はかつて、デブで陰キャラでモテモテ人生とは縁のない人間でした。しかし、フィットネス!
そして今はモテモテだと、自分だけは思っています。この感動を皆さんに感じてもらいたいと思い伝道を決意しました。目標11人!」
そう高らかに宣言すると、自称恋の伝道師は「あぁ、伝道の血が騒ぐ」と呟きながら、呆然としているくまタンを尻目に、また腰をぷりぷり振りながら歩いて行きました。
「くまタン、尾津村のジィさんに会いに行くなら、急いだ方がいいぜ」
マンチキングに言われ、くまタンは旅行の準備に取り掛かりました。
くまタンは家の戸棚にある食料をリュックに詰める込み、尾津村のジィさんの住むというコーポクリオに向かいました。
魔法のランニングシューズを履いていると、どこまででも歩ける気がします。
しばらき歩いていると、小鳥の囀りが聞こえて来ました。その囀りに耳を傾けていると、囁くようなか細い声も聞こえるようです。
「ぉ-ぃ」
呼ばれたような気がして、くまタンは辺りを見回しましたが、誰もいません。
「ぉ-ぃ」
でも声は聞こえます。
くまタンは注意深く見ると、目の前に男が棒に引っ掛かってブラブラ揺れていました。
「おーい、ここだよ。坊や、助けてくれないか」
「ごめんお、気がつかなかったお」
くまタンは、慌てて男を棒から下ろしてあげました。
「あぁ、坊やありがとう。今まで何十人も通ったけど、みんな気付いてくれないんだよ」
「僕はくまタンだお。どうして棒にぶら下がっていたのかお?」
男は淋しそうにため息を突きました。
「俺はケケシ。俺の頭は空っぽなのさ。頭が軽いからすぐ飛ばされてしまうんだよ」
「ケケシさんは勉強しないのかお?学校は楽しいお。いろいろ教えてくれるくま」
「学校?ダメだよ。この町にも学校はあるけど、腐った奴ばかりさ。学長も腐ってる。講師も腐ってる。事務局も腐ってる。あんな学校に行ったら、まともな奴まで腐っちまうのさ」
くまタンはケケシが可哀相になりました。
「そんな学校はダメだお。くまったお…。そうだ!これから尾津村のジィさんに会いに行くから、ジィさんに脳みそを詰めてもらうといいお」
「脳みそかぁ。詰めてくれるかなぁ」
「分からないけど…でも、聞いてみるといいお」
「そうだな、ダメモトで行ってみるか」
こうして、ケケシも尾津村のジィさんに会いに行くことになりました。
ケケシが一緒に行くようになり、旅はずっと楽しくなりました。ケケシは脳みそがないので、しょっちゅう何かにぶつかったり、水溜まりに落ちたりして、その度くまタンはハラハラしましたが、仲間がいるのは心強いものです。
くまタンと脳みそのないケケシが歩いていると、野バラが一面に咲き誇っている花園がありました。
「うわー、綺麗だお」
くまタンは美しい野バラに見入ります。
「ここで少し休もうか」
ケケシが言い、二人は腰をおろしました。
「いい匂いがするお」
二人がうっとりと野バラを眺めていると、野バラの中から何やら黒いものが蠢めいているのに気付きました。
二人が近寄ってみると、カエル顔で全身タイツ姿の男が、野バラに絡まりもがいています。
「こんな所で何をしているのかお?」
くまタンが尋ねると、タイツ男は
「見れば分かるだろう。困ってるんだから早くここから出してくれよ」
と、ひどく横柄な口調です。
くまタンとケケシは、棘で指を傷つけながら注意深くタイツ男を野バラから外しましたが、
「あら、穴が開いちゃった」
と、タイツ男は不満気です。
「お前、友達いないだろう?」
ケケシが、血が滲むくまタンの指を見ながら言いました。
「友達?そんなの、いなくたっていいじゃない」
「・・・」
言葉を失ったケケシに代わってくまタンが言いました。
「それより、タイツ男さんはどうしてあそこにいたのかお?」
「それがよく分からないんだよなぁ、昨日女の子達と飲んでいたんだけど、気がついたらこんな所に居たんだよ」
「女の子さんは、いっぱいいたのかお?」
「いや、ほんの五人ばかりだけどさ。初めはA子とお茶してたらB子がいたんでB子と食事したんだ。そしたらC子に会ってC子とも食事することになったんだ。
そしたらA子が来たんで、A子とも一緒に食事したんだけど、そこにD子がいたんでD子も誘って、ついでにB子も呼んで、モトカノのE子もいつの間にかいたんで、六人で楽しく食事してたんだよ」
「それがなんで、こんな所にいるんだよ」
「不思議だよなぁ。その後、呑みに行ったんだけど、なんかそれからはよく覚えてないんだなぁ。そういえばトイレに行った後から、少し変だったかなぁ。女の子達が妙に仲良くなったみたいな気がするなぁ。
それでビールを呑んだんだけど、そして気が付いたらここにいたのさ」
「それは・・」
『復讐』と言おうとして、ケケシは飲み込みました。
「それは、女の子達は傷付いたと思うぞ」
「どうしてさ?女の子達がデートしたいって言うから、してやったんだよ」
「お前には心がないのか?」
「あぁ、よく言われるなぁ。そういえば、泣いたことないや」
「お前は、他人の痛みが分かるようになった方がいいぞ」
「そうかもしれないなぁ。でも、どうしたらいいんだろう」
「尾津村のジィさんにお願いするといいお」
くまタンが言いました。
「僕達は尾津村のジィさんに会いに行くところだお。ケケシさんは脳みそを、僕はパンの国に帰る呪文を教えてもらうんだお」
「そうだ、そうするといいぞ。お前も尾津村のジィさんに心を貰えよ」
「そうだなぁ。そうしようかなぁ」
心のないタイツ男も、尾津村のジィさんに会いに行くことになりました。
くまタンと、脳みそのないケケシと、心のないタイツ男の旅は続いています。
「くまタン、ここいらでちょっと休もうよ」
ケケシが言いました。くまタンが振り返って見ると、タイツ男も少し疲れたようです。近くには木が繁り、休むには手頃な場所もありました。
三人が木陰に腰をおろすと、くまタンはリュックからパンを取り出し二人に配りました。
ケケシは木に実っている果実を採り、タイツ男は小川から水を汲んで来ました。
パンを食べようとすると、背後でゴソゴソと、何やら物音がします。見ると、大きなブルドックがパンを狙っていました。
「こら!あっち行け!」
ケケシが大声で怒鳴り腕を振り上げると、ブルドックはたちまち逃げ出し、木の間からこちらを窺っています。
「危害を加える気はなさそうですな」
タイツ男がそう言ってブルドックに近寄り、くまタンとケケシも後に続きました。
ブルドックは木に隠れて震えています。
「ブルドックさん、どうかしたのかお?」
くまタンが声を掛けました。
「すみません、脅かすつもりはなかったのです。ただ私はパンが大好きなので、つい近付いてしまったのです」
「それなら、一緒に食べるといいお」
ブルドックはくまタンにパンを分けて貰い、美味しそうに食べました。
「ありがとうございます。私はブールといいます。私は臆病者で声を掛ける勇気がないのです」
そこに小さな蜂が飛んで来て、ブールはキャッと言ってひっくり返りました。
「おい、そんなに怯えてどうするんだよ。なんでそんなに怖がるんたい?」
「分からないのです。でも怖くて自分からは何も出来ないのです。いつも誰かが言い出すのを待っています。そうすれば楽だし、例え間違っていても回りのせいに出来ますから。
回りと違う事を言い出す勇気がないのです。自分でもおかしいと思う時があります。でも言えないのです」
「よし、分かった。お前も尾津村のジィさんに会って勇気を貰え」
「そうだお。それがいいお」
「決まりね」
旅のメンバーが四人に増え、益々心強くなりました。
「キャーッ!」
臆病なブールはしょっちゅう何かに怯えて騒ぎます。今度はタイツ男の穴の開き、伝線したタイツを蜘蛛の巣ど間違えたのでした。
「お前は、本当に臆病だな」
「そうなんです。辛いです。こんなに辛い事はないと思います」
「いえ、心がないのも辛いわぁ。私なんて泣いた事がないのよ」
「何言ってんだ。一番辛いのは脳みそがない事だろ。何も分からないんだから」
「いえ、心よ」
「勇気です」
「脳みそだって」
話題はいつも不幸自慢になります。でも最後は
「尾津村のジィさんに会うまでの辛抱だな」
となり、その時を心待ちにするのでした。
そうこうしているうちに、町並みが見えて来ました。
くまタン達は町に着くと、コーポクリオを探しました。
町人に聞いて辿り着いたのは、アパートというより長屋といった古ぼけたボロボロ建物です。
埃を被った看板には「尾津村なやみごと相談所」と書いてありました。
「どうもここのようですな」
「ごめんください」
ブールがドアをドンドンと叩くと、軒下から蜘蛛が落ち、ブールはキャッと言って飛び退きました。
「あいよ。おや、お客さんかな?」
中からハーパン姿の男が現れました。
「いらっしゃっい。おや四名様ですか。団体割引もありますよ」
なかなか愛想の良い男です。でも誰もお金を持っていません。
「尾津村先生かお?お金がないけど、大丈夫かお?」
くまタンが聞くと、尾津村は途端に不機嫌になりました。
「なんだい、文無しかい。それじゃお断りだね。さあ、帰った」
くまタンは慌ててリュックの中から桃の缶詰を取り出しました。
「お金はないけど、これではダメかお?」
差し出された桃缶を見ると、尾津村はたちまち相好を崩しました。
「おや!これは結構なものを!さぁ坊ちゃん達、むさ苦しい所ですが遠慮なく。ずずずいっと奥へ」
桃缶一つで大層な変わり様です。
くまタン達は中に入ると、テーブルを囲んで座りました。テーブルの上には、水晶玉が置いてあります。
「まずは、どなたからでしょうか?」
尾津村が尋ねると、ケケシが手を挙げました。
「お願いします。私の頭は空っぽで脳みそがないのです。どうか脳みそを詰めて下さい」
すると尾津村は、腕組みをして考え込み、しばらくするとケケシに向かって言いました。
「そういう抽象的な相談は割増料金を戴くんだかなぁ。そうだな、賢くなりたいなら、自分で考えること。はい、次」
「そんなぁ」
ケケシはがっかりして、頭を抱えてしまいました。
次はタイツ男です。
「私には心がないのです。悲しい気持ちが分かりません。どうか心を下さい」
「おや、あんたもかい。だけどお兄さん、心なんてものは自分で見つけるものなんだよ。自分で考えるんだね。はい次」
タイツ男もがっかりです。
次はブールの番です。
「私は臆病で、いつも何かに怯えているんです。どうか勇気を授けて下さい」
尾津村は今度は水晶玉に見入りました。
「おお!見える!見えるぞ。お前さんの前世が見える。ふーむ、お前さんの前世は、愛想良しのパン屋の主人じゃな」
「道理で。だからあんなにパンが好きなんですね」
「その通り、だがお前さんの嫁はとんでもない性悪の悪妻だったのじゃ。この悪妻は無念の死を遂げてな、悪霊となってお前さんに取り憑いておるようだの。だからいつも怯えているんだな」
「ひぇ、悪霊ですか。ど、どうすればいいのですか?」
「なに、心配ないわい。呪いの専門家を紹介してやろう」
尾津村はその辺にあった紙に何やら書き込むと封筒にいれ「夢見枕先生へ」と書き、ブールに渡しました。
「たけのこの国に著名な呪いの研究家がいるから、相談するが良い」
ブールはホッとして封筒をポケットにしまいました。
いよいよ最後はくまタンです。
「僕はパンの国に帰りたいお。どうしたらいいか教えて欲しいくま」
すると尾津村は笑い出しました。
「なんだい、そんな事かい。そんなの簡単だ。魔法のランニングシューズを履いているじゃないか。あとは呪文を唱えるだけだ。えーと、呪文は…と」
尾津村は立って本棚に向かいました。
その時、いきなりドアが乱暴にドンドンと叩かれ、男達の叫ぶ声が聞こえました。
「尾津村さん!今日こそ返して下さいよー!」
「いるのは分かってるんですよー!利息だけでもお願いしますよー!」
「まずい!借金取りだ。悪いな、呪文はそこにある本に書いてあるから、探してくれ」
尾津村はそう言うと、掃除用具置場から箒を取り出すと、それに飛び乗り裏口から逃げ出してしまいました。
「あっ!いたぞ!逃がすな!」
「こらー、待てー」
男達が追い掛ける足音がして、やがて遠ざかります。
「くまタン、その呪文の本を探しましょう」
ブールはそう言って、本棚に向かいました。
くまタンとケケシが後に続きます。
本棚には「銀河鉄道999」「機関車トーマス」の本に混ざって「騙しのテクニック」「100円で作るおかず」「魂の鉄 スピリチュアル・レールライフ」等の本もありました。
「あっ、これかなぁ?」
タイツ男が一冊の本を抜き出しました。
『超簡単呪文入門』と書かれた本を開くと、目次に「行きたい所に行く呪文」とあります。
第三章
行きたい所に行く呪文
1)魔法の靴がある場合
左足の踵で3回、爪先で2回地面を蹴り、行きたい場所を告げる。「○○○へ行け」
※場所は正確に告げること
2)魔法の靴がない場合
高度な技術を要するので、上級編を参照
「これなら出来そうだお」
くまタンは安心してテーブルに戻ると、ケケシが何やら考え込んでいます。
「ケケシさん、本が見つかったお。これでお家に帰れるお」
「・・・」
くまタンが声を掛けてもケケシは気付きません。
「ケケシさん、どうかしたのかお?」
「あ…」
ようやく、くまタンに気付きました。
「くまタン、俺考えてみたんだけど…」
ケケシはくまタンをじっと見詰めました。
「パンの国の学校に行こうかな…と、思うんだけど…」
くまタンはニッコリ笑いながら
「そだね。それがいいお。パンの国の学校は楽しいお。お利口さんになるくま」
ケケシも嬉しそうです。
「さぁ、みんなでパンの国にこうぜ」
ケケシが呼び掛けると、みんなくまタンの回りに集まり、手を繋ぎました。
くまタンは、左足の踵を3回、爪先を2回蹴り「くまタンの家!」と叫びました。
すると四人は地面から浮いてクルクルと回り、スッと消えてしまいました。
ストン。
くまタンとタイツ男は地面に足から降りました。そばにケケシとブールが転がっています。
「上手くいったね」
ケケシが言いますが、くまタンは回りを見てがっかりしました。色とりどりの草花が咲いています。マンチキンのくまタンの家に来てしまったのです。
「ここはパンの国じゃないお。」
くまタンは行き先を言う時「パンの国」と言わなかったのを思い出しました。
「まぁ、いいじゃないか。魔法のランニングシューズがあるんだから、またやり直せばいいさ」
「そだね。折角だからお家で休むといいお。美味しいクマドレーヌもあるっくま」
「おう、美味そうだ。ゴチになるとするか」
四人が家の中に入ると、そこにはマンチキングがいました。
マンチキングはポツンと一人で座っています。そして部屋には何故かたくさんのハトもいました。マンチキングの身体はハトのフンだらけでベタベタです。家の中には異様な臭いが充満していました。
「マンチキングさん、どうしたのかお?」
くまタンは悪臭を避け、家には入らず玄関からマンチキングに声を掛けました。
「やあ…くまタン…呪文は…分かったのか…な…」
マンチキングは虚ろな表情です。
くまタンは、部屋にいる何百羽ものハトを指差して言いました。
「マンチキングさん、このハトはどうしたのかお?」
「ああ、このハトか…」
マンチキングも家の外に出ながら答えました。
「くまタンからもらったチキンサンドが忘れるられなくてさ。公園からハトを5~6羽カッパラって来たんだよ。そしたら何か可愛くなって飼っていたら、卵産んで増えるわ、仲間が集まるわで、いつの間にかこんなになってたんだ…」
マンチキングの身体からも異臭が漂っていて、くまタンはこっそり息を止めました。
「おや、誰か来ましたよ」
ケケシに言われて振り返ると、人相の悪い自称恋の伝道師が腰をプリプリ振りながら歩いて来るところでした。
「よぉファンキー、調子はどうだい」
マンチキングが声を掛けると
「その呼び方はやめてくれ」
と、顔をしかめましたが、すぐに満面の笑みを浮かべました。
「聞いてくれ!俺にようやく信者が出来たんだ!苦節10年、目標まであと10人だ。そしたら俺もモテモテ教の教祖だぜ!」
自称恋の伝道師は嬉しそうに言うと、その場で屈伸運動を始めました。
「おっと、いけねえ」
マンチキングが慌てて家に向かいます。
「ハトちゃん達のお散歩の時間だ」
マンチキングは、家の窓を開けました。
「さぁ、ハトちゃん、お散歩でちゅよー、運動不足はいけませんよー」
窓が開くと、何百羽ものハトが一斉に家から出て来ました。ハトはフンをボトボトと落としながら、一列になって飛び立ちました。ハトのフンが、白い線を作っています。
突如、屈伸運動をしていた自称恋の伝道師が叫びました。
「うわぁー、ダメだー」
そして白線に沿って歩き始めました。
「俺は白線を見ると、歩いてしまうんだー!誰か助けてくれー!」
自称恋の伝道師は、ハトが飛び立った方に、猛スピードて歩いています。
「ファンキー、そっちには崖があるぞ。気をつけろよ」
「ダメなんだー、条件反射なんだー、自分では止められないんだー」
自称恋の伝道師の姿は次第に小さくなり、やがて「うわぁー」という悲鳴と共に消えました。
「自称恋の伝道師さんは大丈夫かお?」
「なあに、毎度の事だ。気にすんな」
「それよりくまタン、早くパンの国に行こうよ」
ケケシに言われて、くまタンはとってもお父さんとお母さんに会いたくなりました。
「そだね、みんなつかまって。マンチキングさん、ありがとう」
四人が手をつなぎ、くまタンが左足の踵を3回、爪先を2回蹴り「パンの国のくまタンのお家!」と呪文を唱えると、またしても四人の身体は地面から浮いてクルクル回り始め、そしてスッと消えました。
二度目の着地は上手くいき、みんな倒れずに下りました。
くまタンはそっと目を開け、回りを見ています。
くまタンの目に、まずアヒルが写りました。パンの国で飼っていたアヒルです。少し先には馬もいます。今度は間違いなくパンの国に帰って来たようです。
くまタンは、家が建っていた所を探しました。そこでは、お父さんが新しい家を建てているところでした。
「あっ、パパン」
くまタンは夢中でお父さんの元へ走って行きました。
「くまタン、無事だったのか」
お父さんも、大声で叫び、その声でお母さんも駆け付けました。
「パパン、ママン、会いたかったおー」
「無事で良かったわ」
「心配してたんだぞ」
三人は抱き合って、泣きながら喜んています。
それを見たケケシとブールも「良かった、良かった」と泣き始めました。心のないタイツ男だけが、一人でポツンと立っています…と、思ったら、何だか震えています。
様子のおかしなタイツ男に気が付いたくまタンは、タイツ男に近づきました。
「タイツ男さん、どうかしたのかお?」
タイツ男を覗き込みながら、くまタンが聞きました。
すると、タイツ男が震えながら言いました。
「わ、私、今まで傷付けた人達に謝って来るよ」
タイツ男の目から、ポロリと涙が落ちました。
おしまい