ニ編起請文
この作品はフィクションであり、実在する人物・団体には一切関係がありません
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598 名前:お伽草子 ◆NhDiiXmp8. [sage] 投稿日:2009/10/24(土) 23:34:54 ID:Fo8bJuGn
禍害なるかな、偽善なる学者、なんぢらは人の前に天国を閉して、自ら入らず、入らんとする人の入るをも許さぬなり。盲目なる手引よ、汝らは蚋を漉し出して駱駝を呑むなり。
禍害なるかな、偽善なる学者、外は人に正しく見ゆれども、内は偽善と不法とにて満つるなり。
禍害なるかな、偽善なる学者、汝らは預言者の墓をたて、義人の碑を飾りて言ふ、「我らもし先祖の時にありしならば、預言者の血を流すことに与せざりしものを」と。
かく汝らは預言者を殺しし者の子たるを自ら証す。なんぢら己が先祖の桝目を充せ。蛇よ、蝮の裔よ、なんぢら争でゲヘナの刑罰を避け得んや。
T君、わるいけれども、今回は、君にむかってものを言うようになりそうだ。
君は、いま、学長なんだってね。ずいぶん勉強したんだろう。大学時代は、あまり「でき」なかったようだが、やはり、「努力」が、ものを言ったんだろうね。
ところで、私は、こないだ君の記者会見みたいなものを、偶然の機会に拝見し、そのオロオロぶりに、甚だおどろくと共に、君は体育領域出身のくせに、法律家のように、まるでいい加減に犯罪を判断しているらしいのに、本当に、ひやりとした。
古来、教師で、学生の悪ふざけに苦しめられなかったひとは、一人でもあったろうか。
しかし、それは私の所謂あまい感じ方で、君は、それに気づいていながらも、君たちの自己破産をおそれて、それに目をつぶっているのかも知れない。
学者の本質。それは、私にも幽かにわかるところもあるような気がする。君の、所謂「神」は、「美貌」である。真白な手袋である。それを守るために、平気で嘘をつくんだね。
私は、君たちの所謂「生業」の、教育の成果を見せてもらうことによって、実に非常なたのしみを得た。そのことに就いては、いつも私は君たちにアリガトウの気持を抱き続けて来たつもりである。しかし、君のこの頃の成果ほど、みじめな貧しいものはないとも思っている。
君は(覚えておくがよい)、ただの教師なのだ。家庭円満、妻子と共に、おしるこ万才を叫んで、犯罪教師を生み出す滅茶もさることながら、どだい、君には「教育」が、まるでわかっていないようだ。
現実から逃げ、非難から逃げ、学長の責任と言われるのも口惜しく、何やら「権威」を装っている様子だが、君が、世の中に多少でも信頼を得ている最後の一つのものは何か。
知りつつ、それを我が身の「地位」の保全のために、それとなく利用しているのならば、みっともないぞ。
教養? それにも自信がないだろう。どだい、どれが正しくて、どれが間違いなのか、区別が出来やしないんだから。
優雅? それにも、自信がないだろう。いじらしいくらいに、それに憧れていながら、君たちに出来るのは、新築家屋の文化生活くらいのものだろう。
しかし、君は何やら「名誉人」みたいな口調で、すまして民衆に説いている。
隠蔽。
案外、そんなところに、君と民衆とのだまし合いが成立しているのではないか。まさか、と言うこと勿れ。民衆は奇態に、その隠蔽というものに、異常なくらい関心を持つ。
何というひねこびた虚栄であろう。しゃれにも冗談にもなってやしない。嫌味にさえなっていない。
君たち大学教授は、こういうところで、ひそかに自慰しているのであって、これは、所謂学者連に通有のあわれな自尊心の表情のように思われる。
何という思いやりの貧弱。ヘラヘラと笑っている、その笑い顔は君によく似合う。
光栄なる者よ。少しは、恥かしく思え。
五十年百年、謂わばレッテルつきの伝統校と誇るならば、文句もなく三拝九拝し、大いに宣伝これ努めていても、君のすぐ隣にいる被害者を、公然猥褻としか解することが出来ないとは、折角の君の勉強も、疑わしいと言うより他はない。
教育に於て、最も大事なものは、「心づくし」というものである。「心づくし」といっても君たちにはわからないかも知れぬ。しかし、「親切」といってしまえば、身もふたも無い。心趣(こころばえ)。心意気。心遣い。そう言っても、まだぴったりしない。
つまり、「心づくし」なのである。教師のその「心づくし」が学生に通じたとき、教育の永遠性とか、或いは教育のありがたさとか、うれしさとか、そういったようなものが初めて成立するのであると思う。
料理は、おなかに一杯になればいいというものでは無いということは、前回も言ったように思うけれども、さらに、料理の本当のうれしさは、多量少量にあるのでは勿論なく、また、うまい、まずいにあるものでさえ無いのである。
料理人の「心づくし」それが、うれしいのである。心のこもった料理、思い当るだろう。おいしいだろう。それだけでいいのである。満腹を求める気持は、下等である。やめたほうがよい。
何もわからないくせに、あれこれ尤もらしいことを言うので、つい私もこんなことを書きたくなる。この頃、君も、あまり世間一般の勉強をしていないようじゃないか。常識の勉強を怠ったら、君は自滅だぜ。
繰り返して言うが、君たちは、教師に過ぎないのだ。所謂「センセイ」にさえなれないのだ。勲章?プッ!せいぜい女房孝行するさ。
誠の教育者があらわれるのは少くとも君の周囲からではあるまい。
<太宰治・如是我聞>より