番外 ブキティの呪詛1
この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、場所、事件とは一切関係ございません
378 名前:ぶさ哀し ◆bn8HtkiBZYxC [sage] 投稿日:2009/09/03(木) 09:26:54 ID:ByMnD3Ag
番外 ブキティの呪詛1
色黒の醜女、ブキティは憂鬱であった。
腐れ外道の通うFランク国立大をようやく卒業した後、就職もできなかったからである。
某宗教を狂信する自分を、家人は異星人を見るような目つきで見、顔を合わせれば穀潰し扱いするのだ。
いかに自分が優れた職に就きたいか、長広舌をふるっているのに、家人はそんな
ブキティをただの誇大妄想狂と一蹴した。
大学の伝手で見つけたアルバイトは、不細工な面に似合わぬ少女趣味のブキティに
とっては理想郷に思えた。某オルゴール館のように有名ではなく、ひっそりとしたたたずまい。
馥郁とした芳香を放つ薔薇の園。その中に身を置くと、さながら欧州の王侯貴族の美姫になれた気分に浸れる。
ブキティは己の不器量を暫し忘れ、醜い現実から逃避するように薔薇園を彷徨した。
不細工だからブキティ。誰がこのようなストレートな罵倒を渾名にされて喜ぶものであろうか。
私だとて女だ。たとえゴツゴツと筋骨で節くれだち、コーヒーのようなどす
黒い肌色をしていようが、地獄の底深くから響き渡るような、低い太い声で
あろうが、私はまごうかたなき女なのだ。ここにいて、オルゴールの繊細な調べに酔い
薔薇と戯れていれば幸せなのだ。
実際のブキティは、頬かむりとマスクをし灰色の作業着姿で、薔薇につく毛虫が戯れてくるのだが。
薔薇の世話に明け暮れるブキティに、ひとつの転機が訪れた。
オルゴールの館での結婚式イベントがあるのだが、担当のバイトが急に体調を崩して
休み、急遽ブキティにその穴埋め役がまわってきたのだ。
条件はただ一つ、女であること。新婦に花を撒く友人役を仰せつかったのだ。
世の中にはこのようなこともあるのだと、ブキティは驚いた。親しい友人など
皆無なブキティは、いずれこのような偽りの友人を喚ばねばならないかもしれない。
とは思いもせず、急遽先輩方にドレスアップさせられ、華やかなワンピースを
身にまとったブキティは、物乞いをしていたジャンヌが侯爵夫人に引き取られた
時のような、弾んだ気分でいた。ついお題目が口をついて出そうになる。
式次第に従って花を撒いたあとは、なんと披露宴にまで出る羽目になった。
新郎新婦の友人たちの集まりだというが、式場のスタッフとバレてはならない。
無駄口を叩かず、しかも愛想よく振る舞えと、ブキティには無理な注文をされた。
わりと見栄えのする新郎友人たちと、美人二人に挟まれたブキティは身の細る思いであった。
会食は本格フレンチであり、テーブルマナーなど知らない世間知らずなブキティは
フォークとナイフの出し方からつまづいた。結果、式場スタッフがやたらと自分を
フォローしてくれはしたが、ガチガチに緊張したブキティだけを蚊帳の外に
新郎友人らと新婦友人らは意気投合し、大いに盛り上がっている。
今度みんなでドライブにでも、とまで進展していた。男たちも、女たちも
欲望の漲る浅ましい目つきをしていた。
突然、ブキティは吐き気に襲われた。世の中の、享楽に溺れ堕落したものども
どす汚れた獣欲にまみれたこやつら、呪われるがよい!
ブキティの無知と非常識ゆえの逆恨みは、幸せな祝福の宴にある全ての人に向けられた。
かろうじて吐瀉物をぶちまける惨事だけは必死にこらえたが、吐きそうな
ブキティに男女たちは慌てふためき、やっとこちらに注意を向けさせることができた。
先ほどまでの盛り上がりは雲散霧消し、白けたムードが円卓を包んでいた。
ブキティの口の端が、気味悪い笑みの形に歪んでいたことに、彼等は気付いていただろうか?