かたつむり

この物語は完全なるフィクションであり、実在する人物・団体には一切関係ありません


たけのこの里2
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1258284398/

61 名前:69(仮)[sage] 投稿日:2009/11/21(土) 16:52:44 ID:cpbv+wNj

時々想い出す光景がある。
梅雨時の紫陽花の鮮やかな葉の上にいるカタツムリを。
雨の日の学校やダンス教室からの帰り道、いつのまにかそこにあたりまえのようにいた。
つつけばツノをひっこめる、見ているのが嫌になるくらいに動きもニブい。
なのに、どこからあらわれるのか不思議でしかたなかった。
もしかしたら、雨と一緒に空から降ってくるのかもしれないと子供心に思った覚えがある。



大学で事件が起こったとき、あまりにも腹が立ってネットに思い切り書き込んでしまった。

今までにもこんな事件あったのに。
そんなの自分だけじゃないだろうに。
先生ができるだけ穏便にことを収めるように配慮してくれてたのに。
卒業を控えている先輩たちだっていたのに。
オリンピックにだって行けたかもしれない人もいたのに。
兄弟に有名選手がいる人だっていたのに。
お家がお商売やっている人もいたのに。
うちの学校の学生なら、誰でもが希む教職になった先輩もいたのに。
下手したらば在学生も影響を受けるかもしれないのに。
大学の評判が落ちるかもしれないのに。

なのに、なのにあいつはことを公にした。
あたしはゆるさない。絶対に許さない。
自分さえよければ、他の学友はどうでもいいなんて。
ゆるせない。
人権侵害じゃないか。
ふざけないでほしい。


落ち着いてきたら、もしかして自分はかなりマズイことをやってしまったのかもしれないと思えてきた。
面と向かって言ってくる人はいなくても、なんとなく非難の視線を感じることはある。
ちょっと言い過ぎたかも知れない。
ダンス部だってバレているのも痛かった。
でも!!
そんなこと気にする自分は、後ろ向きすぎて自分じゃない。
心に浮かんだあいまいな罪悪感は、沈めてしまおう。
楽しいことで上書きして過ごそう。
心のシミは、消し去ってくれる夢中になれるもので覆い隠せばいい。

ダンスが好き。
子供のころからやっているし、なにはなくてもとりまダンス!
サークルでも一生懸命やってる。
学祭は、大学最後の舞台。全力投球。
ダンスに振付に、大車輪で活躍した。
パンフレットには、目にハートを貼ってもらった。
ノリのいい同級生たちも悪乗りしてお揃いにしてくれた。
いい仲間たち、本当に自分は幸せだ。

時々滲み出るシミのような罪悪感は無視できる程度のものなはず。
公演が終わって、みんなと抱き合いながら感激して泣いた。
何とも言えない充実感が心を満たす。



忘れられない光景がある。
梅雨時の紫陽花の鮮やかな葉の上にいるカタツムリを。
気がつけば、いつのまにかそこにあたりまえのようにいた。
どこからあらわれるのか不思議でしかたなかった。
きれいな葉の上で一点のシミのようなカタツムリの姿を。
消しきれないシミをつけた鮮やかな紫陽花の葉を。