陰陽師 京教ノ巻 3

この物語は不完全なフィクションであり、実在の人物、場所、事件とは多分関係ございません


【お肉壺】QB師匠の窪みを語るスレ【股間が竹の子】 4
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/aniki/1250634053/

612 名前:陰陽師 京教ノ巻(8) ◆yIOXwfeSEE [sage] 投稿日:2009/08/24(月) 23:48:38 ID:TQUa20JD



                    八

蜩(ひぐらし)が鳴いている。
風がときおり吹きぬける。
まだ夏ではあるが、日が沈んだ後に吹く風は、どこか秋を感じさせることもあった。
文月を少し過ぎたばかり───現代なら八月の終わりが近づいた頃であろうか。

安部晴明の屋敷で、源博雅は酒を口に運んでいた。
むろん、晴明も共に酒を飲んでいる。

「晴明よ───」
 博雅が、少し寂しさを感じさせる声色で言った。
「何だ」
 晴明は素っ気ない程の声で答える。
「俺はなあ、毎年あの蝉の声を聞くとなんとも切なくなるのだよ」
「ふむ」
「夏が始まる前には、あれもやろう、これもやろうと心が躍っていたのだが
 結局俺は何も出来なかったのではと悔やまれるのだよ」
「何か遣り残したことがあるのか、博雅よ──」
「いや、そう言われるとすぐには出てこぬのだが──」
「ははあ」
「どうした、晴明──」
「それは呪よ」
「やめてくれ、晴明。俺は今の俺の心情も好ましく思っているのだよ。
 だがお前の呪の話を聴くと、俺は頭が痛くなってしまうのだ。」
「博雅よ──、音もまた呪なのだよ」
 意に介さず晴明が続ける。




                    九

「音も呪?どういうことなのだ晴明よ」
「そうだな、蜩が鳴くことによって、博雅、おまえに呪がかかったのだろうというようなことかな」
 博雅は、晴明の言ったことがよくわからなかったらしく、
「何だって?」
 そう問うていた。
「蜩が鳴くことと、呪と、どういう関係があるのだ」
「まあ、あるとも、ないとも言えるだろうな」
「なに!?」
「おまえの場合には、あったということだな、博雅よ」
「おい、待てよ晴明。おれには何のことやらさっぱりわからんぞ。
 おれの場合にはあったというなら、他の誰かの場合にはないということもあるのか」
「そういうことだよ」
「わからん」
「よいか、博雅」
「うむ」
「蝉が鳴くというのは、ただそれだけのことよ」
「うむ」
「しかし、いったんそれを人が聴くならば、そこに呪が生まれることになる」
「そういうものなのか、晴明」





                    十

「博雅よ───そういうものなのだよ」
「例えば、外つ国の人は、蝉のみばかりでなく虫の音も聞こえぬらしいぞ」
「なんと!それは本当か?晴明──」
「学者の言うには、ここの機能に差があるということだが───」
 晴明が烏帽子を指差しながら続けようとする。

「晴明よ、俺にもわかるような話で頼む」
 晴明、その紅い唇に杯を運んだ後で
「博雅よ、おぬしは笛を吹くであろう」
「ああ」
「誰かの吹く笛の音を聴いて、それを美しいと想うたりもするであろうが」
「まあ、そうだ」
「しかし、同じ笛の音を耳にしても、それを美しいと想う人間も、想わぬ人間もいる」
「あたりまえではないか」
「だから、そこなのだよ博雅」
「何がだ」

「つまり、音そのものは、美ではないということだ。
 蝉の音をそこらにある石ころと同じように捉えるか、哀しげな音と捉えるかは、
 その音を耳にした人の心の中に生ずるもので決まるのだよ」
「うむ」
「そして、同じように言葉も呪なのだよ、博雅───」
「う、ううむ」
 博雅がうなるようにうなずく。




                    十一

「ある事件について十二分に話し合われ、新しい話題が尽きたとき、スレッドは終わる」
「うむ」
「しかし、この事件は違う。いっこうにスレッドが終わる気配を見せぬ。
 確かに事件当初の勢いはないかもしれないが、未だに誹謗中傷を行う輩や、
 追求をかわそうという動きが見えるため、継続スレッドが立ち続けるのよ」
「それは、つまり───」
「そう、スレッドが広がり伸び続けているのは、呪を帯びたレスが多いということなのだよ。
 被害者側であれ加害者側であれ、呪に突き動かされることでスレッドが伸びているともいえる」
「なんと」
「外つ国のものに蝉の音が聞こえぬように、事件に関係のないものなら的外れのレスを読んでも、
 あのように話題をずらしたり、やめさせようという気にはならぬものなのだ」
「うむ」
「誹謗中傷を行っているものたちは、どうしても住人の投稿が気に食わぬのであろう」
「哀れなことだな」
「そして、その反論は今度は住人への呪となる」
「おおう」
「そして、その呪によって生み出される文章、作品もあるのだよ」

「晴明、やはりこの事件は長引くか?」
「すでに三月が過ぎようとしているが、加害者学生に対し大学側は十分な処分を下していない。
 学長辞任も事件当初であればいくばくかの効果は見込めたであろうが、あの時期では呪を強めただけだ。」
 大学側が動かぬ以上、スレ住人の呪は強くなることはあっても、消えることはなかろうよ」
「そういうものなのか」
「そういうものなのだ」

「しかし博雅よ、見えぬ、聞こえぬ、わからぬというのもまた、呪と関わることがあるのだよ──」
「なに、晴明──、またわからなくなってしまったぞ」





                    十二

「そうか?同じ話をしているのだがな」
「見ざる聞かざるでは呪にならぬのではないか?」
「博雅よ、蝉丸法師どのの話は覚えているか?」
「おう、あの蝉丸どのか───」

 蝉丸は盲目の琵琶法師であった。
 博雅の琵琶の師ともいうべき人物である。

「蝉丸どのがとある用事で呼ばれたときのこと、一通りの用事が済んだおりに、ふいに、隣の部屋から琵琶の音が
 聴こえてきた。しばらくその琵琶の音に耳を傾けておられた蝉丸どのだが、やがて、おもむろに自分の琵琶に
 手を伸ばされて弾き始めた──というあの話よ」
「ほどなくして、隣の部屋から響いていた琵琶の音がふいにやんでしまったというやつだな」
「そう、その話を聞いた公家の血を引くという琵琶自慢の男が同じようなことをやった」
「蝉丸どのを御呼びして、隣で琵琶を弾いたのが今度は蝉丸殿は一向に琵琶を弾こうとなさらぬ。
 そこでどうしてもと無理にお願いして琵琶を弾いていただいた」
「しかし、今度の男は蝉丸どのの琵琶を聴いても、自分の演奏をやめなかった」
「そうよ、前者の男は蝉丸どのの琵琶を解し、己の未熟さを恥じるくらいには聴くことができたが──」
「後者の男は、蝉丸どのの琵琶を聴いても一向に恥じ入ることなく、自分の琵琶を弾き続けた──」


「わかったぞ、晴明。あまりにも見えすぎぬということは、実は自分の見えるもの見たいものしか見ておらぬ
 ということだな。」
「そのとおりよ。博雅──、そしてその自分が見たいものというのは呪だ。
 数多の作品が面白さを競うこのスレッドで「下手糞な小説は迷惑」と大声を張り上げるのは、
 よほど自分以外の事が見えておらぬのだと思える」
「特に昨夜のはひどかったな。たった一人で小一時間は叫んでおったぞ」
「あれはな「自分は欝」「自分は被害者」「自分には才能がある」という呪をかけておるのよ。
 今までもう幾年もかけ続けたのであれば、いまさら、理を説いたとて、打ち消すことは出きまいよ」
「なんとも哀れな話だなあ」
「唐土の詩人であれば、このような詩を詠んだかもしれんな」

     千板姦絡立
     三串人蹤残
     売捨名張娘
     獨踊兄貴板

( 板という板に京教大準強姦のスレが立ち
  ミクシには足跡が残される
  売られ捨てられた名張の娘は
  一人ガチホモ板で踊っている )

「晴明よ、ならば俺は笛を吹こう──」
「博雅、頼む」
「ああ」
 答えて、博雅は、葉双を懐から取り出した。
 しずしずと優しい力が夜の闇の中に溶けていくようであった。

 博雅は、静かに笛を吹き続けている。