おたけ

この物語は不完全なフィクションであり、実在の人物、場所、事件とは関係ございません

【お肉壺】QB師匠の窪みを語るスレ【股間が竹の子】 7
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489 名前:ウホッ!いい名無し…[sage] 投稿日:2009/10/09(金) 21:23:36 ID:2aAFWx1j


 大坂の道頓堀の川沿いには歌舞伎を上演する劇場がいくつもあり、川舟から降りた千両役者の
華やかな姿を見られる。一番人気の芝居がかかる劇場の裏の中庭を通った奥座敷では、主演した
女形を抱くことも出来たが、ほんのごく一部のお偉方だけである。
 裏通りに入ると侘しげな陰間茶屋がいくつもあるが、表通りとは違い華やかさも色気もない。
その中でも「ゐたう」はそういった陰間茶屋の中でも最も人気がなく、いわば武家の三男以下の
貧乏武士などがわずかな金を稼いでは通うような店であった。皆が陰で「ゐたうは厭うに通ず」などと
悪口をいうのも尤もな、ひんまがった陋屋の奥には、とうのたった醜い陰間しかいないのである。

 その「ゐたう」を贔屓にしている者がいた。武士とは名ばかり、主も決まった収入もなく、
住まいとしているなめくじ長屋の他の住人の手助けをすることで糊口をしのいでいた。
といっても未亡人や老人などの力仕事をたまに請け負う程度、その日生きていくのがやっと
だったのだから、滅多と行かれはしない。
 余り恵まれているとは言えないが奉公人である友人が、彼を憐れんで臨時の仕事を回してくれた
時に得られる臨時収入があればやっと行くことができるのだった。

 「おたけ。暫くぶりだった。お前に会えるのをどれほど待ち焦がれたことか」
すすけたような畳の上に敷かれた粗末な布団の上で彼が腕の中のおたけに語りかけた。
「まぁ…江櫓本様。私には勿体ないようなお言葉を…。私もお待ち申しておりました」
「相変わらず愛くるしい。お前ほどの可愛い子を私は見たことがない」
「ああ江櫓本様…」おたけは何と言っていいかわからず絶句していた。貧乏子沢山の農家からまだ
物心が付いたか付いていないか分からないほど幼い頃に売り飛ばされてきたが、一度もそんな
言葉を掛けられたことがない。なかなか買い手がつかずこの「ゐたう」に二束三文でやっと
売り飛ばされたような余り麗しいとは言えない子だった。

490 名前:ウホッ!いい名無し…[sage] 投稿日:2009/10/09(金) 21:25:04 ID:2aAFWx1j

 しばしの沈黙の後江櫓本が語りだした。
「なぁ、おたけ。私は本当にお前を好いて好いてならないのだ。扶持もない貧乏侍故、なかなか
来ることも適わないが、実のところ毎日でも通うて来たい位なのだ。今の状況から抜け出せ、
お前を身受け出来たらどれ程良いだろうかと考えている」
それを聞いて、おたけは分からない程度に身を震わせた。ここまで惚れてくれるのは有難い事とはいえ、
江櫓本など全く好みではなく、仕事でなければ肌を合わすのなどまっぴらごめんというのが、正直な
気持ちだったからだ。
 「おたけ。ああおたけ…!この願いが適わぬのなら、一緒に身を投げてくれまいか。どう考えても
今以上のよい生活が出来るようになるとは思えない。お前と一緒に暮らせぬのなら…いっそ死んで
永遠にお前とあの世で暮らせたらと思うのだ!」
 江櫓本は目を潤ませ、声を震わせながらおたけを強く抱きしめた。江櫓本の脳裏には、道頓堀川の
河辺に引き上げられ、戸板に載せられた、固く抱き合った2人の恋人の死体があった。
…だが抱きすくめられたおたけは全く違うことを思っていた。「冗談じゃないわ。私には夢があるんだよ。
自分の店をもって、若くて可愛い陰間茶屋をたくさん置き、客を取らせるのだ。もちろん場所は道頓堀沿い。
華やかな店には灯りが多く点り懐豊かな客が大勢押し掛け大金を落としていく。客がない時は自分の気に入りの
美少年を侍らせ、可愛がるのだ。
 それだというのに、この貧乏人ときたら!何を言いだすやら!

 「あぁ江櫓本様!なんて有難くて…おたけは嬉う御座います。そこまで思うていただけるなんて…今まで
そんな優しい方がいらしたことはなかった。身に余る幸せで…」
おたけはそこで一息ついた。「でも…でも…これでも私は遠い国に置いた父母のいる身。大恩あるお父様と
お母様を悲しませることは…私にはできかねます。送金することも適わなくなってしまいます。だから、
いくら有難いお言葉といえども、江櫓本様と心中することは…本当に申し訳なく思います」
よよと泣き崩れるおたけ。そのおたけの痩せた肩を抱きしめる江櫓本。
「悪かった。おたけ。本当に悪かった。お前にそんな思いをさせてしまうなど、男の風上にもおけなかった。
どうかこれからもご両親には良くして差し上げておくれ」

 江櫓本が帰った後、おたけは自分の部屋に戻り、畳の下の壺をとりだした。おたけには両親など既にいない。
壺には貯めに貯めた小金がざくざく入っていた。
「ふん。あたしの夢を壊すなんて許せないわ」そう呟くと、おたけはにやにやと笑って小金を掻きまわした。

終わり
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